この記事の目次
廃棄されたブイや魚網、パレットなどが生物存続の危機に
海洋ごみとは、海に漂っているごみのこと。その多くは人間由来で、魚網やロープ、ブイ、発泡スチロール、ペットボトル、流木やパレットなどが国内外から流れ着きます。大半は回収されず、海を漂い続け、環境汚染や海洋生物の生命を脅かしています。
アスクルとヤマハ発動機は共に第一回目となる「海洋プラについて知る・考える」アスクル×ヤマハ発動機 共創イベント vol.1を開催いたしました。
ヤマハ発動機は「地球がよろこぶ、遊びをつくる」をテーマに新規事業に挑戦。海岸のマイクロプラスチック回収器具の開発も“楽しく”進めています。また、今回の会場となったのは、ヤマハ発動機の横浜オフィスにオープンしたコクリエーションスペース「YAMAHA MOTOR Regenerative Lab(リジェラボ)」。ワークショップやセミナーを行うスペース、コワーキングエリアが備わった空間で、「共感がめぐり、共創が生まれ続ける拠点。」をコンセプトに共創を通して新たな事業やイノベーションを生み出していく場所です。
この日は、会場では約80人、オンラインでは約40人が参加。環境問題への意識の高い参加者たちの熱気で盛り上がりました。
日本一、海洋ごみが漂流する美しい対馬へのダメージ
最初に登壇されたのは、長崎県対馬市の未来環境部でこの海洋ごみ問題に取り組む久保 伯人さんです。

対馬は、南北82km、東西18km、東京23区より広い島で、約27,000人が住む美しい島。ツシマヤマネコや対州馬などそこでしか生息していない生き物や植物がいるこの島には、国内外の海洋ごみが日本一流れ着きます。
「海流と北西からの季節風の影響、そしてリアス式海岸特有の複雑な地形によって、海洋ごみが流れ着いて溜まってしまう、海洋ごみの溜まり場になってしまいます。その量は、年間約4万㎥。家庭のお風呂で20万倍分、東京タワー一本分に相当します」と久保さん。
環境省の「海岸漂流物等地域対策推進事業補助金」を活用して年間約2億8000万円の費用が投入され、対応に当たっているものの、回収できるのは、毎年8,000㎥程度で、漂着量の3分の1程度。複雑に入り組んだリアス式海岸の影響で重機が入れない海岸が多く、地元の漁協に委託して船で回収を行っていますが、到底追いつきません。
回収されたごみは島内のクリーンセンターに運び込まれ、リサイクル可能なものは破砕等の処理が行われますが、劣化が進んでいるごみが多く、リサイクルできるのは全体の1割ほど。多くは埋め立て処理されています。
久保さんは、漂着ごみをアートに変える「Ocean Good Art」プロジェクトを推進しています。
プロジェクトで制作されたアート作品を様々な場所で展示し、海ごみ問題の啓発活動を行っています。イベント当日も会場に作品が展示され、来場者の目をひいていました。
大阪万博でも「対馬ウィーク」として1週間、海ごみなどの課題解決に向けた取り組みを発信したり、「BLUE OCEAN FES.」でアート作品展示とオブジェづくりワークショップを開催したりしていました。
地球を救うための商品開発
次に登壇したのは、パタゴニア・インターナショナル・インク日本支社wholesaleマネージャーの桑原 茂之さんです。

パタゴニアでは”We’re in business to save our home planet.”をスローガンに掲げ、「2025 Goals」として、100%環境配慮素材の仕様や、製品ラインから「永遠の化学剤」の排除、100%の生地でリサイクル可能にすることや、合成繊維の50%は二次廃棄物を使用することに取り組んでいます。
パタゴニアでは、対馬の海洋プラスチックペレットを100%リサイクルしたフライングディスクを販売しています。
海洋漂流のプラスチックをペレット化したものを原料に、和歌山のメーカーが成形。2024年2月には約4,000枚を生産し、使用された海洋プラスチックは700kgに上りました。
「海洋プラスチックを製品化するのは、実は簡単ではありません。コストもかかりますし、流れ着いた様々な素材によって硬さや溶け方にばらつきがあるので良質な原料とは言えませんし、供給可能な量も予測ができません。表面に艶がなくなったり、耐久性が100%保証はできないのですが、それでもものの大切さを伝えたいという思いで、取り組んでいます。海洋プラスチックで製品が作れること、そしてその製品が売れることを示し、こうした環境を考えた取り組みが、消費者の買い物の判断基準の一つにもなっていくといいと願っています」と桑原さん。
パタゴニアでは、店舗の展示や今後の商品開発を通じて、リサイクル素材の活用をさらに広げていく予定です。
コンテスト入賞の中1生が訴える海洋ごみ問題
海洋ごみ問題を解決しようと取り組んでいるのは、大人ばかりではありません。課題解決に向けた取り組みを考案し、全国学芸サイエンスコンクールで金賞を受賞した中学1年生の藤井 景心くんも、環境問題に取り組んでいます。

藤井くんは、危険な海洋プラスチックごみについて発表しました。
湘南で活動するビーチクリーン団体「海さくら」。そのビーチクリーン活動に参加し、目にしたのは、漁網やブイ、ロープといった廃漁具でした。
「ゴーストギア」と呼ばれる海に流出した廃漁具の問題によって、多くの海洋生物が命を落としていたり、廃漁網の処分に高額な費用がかかったりする問題を説明し、実際に廃漁網のリサイクル現場を体験してみた話などを共有してくれました。
「廃漁網は、ペットボトルの次にリサイクルしやすい資源だと言われていて、ペレット化してリサイクル製品へと生まれ変わります。しかし、リサイクルの会社がまだ国内に少なく、ナイロン以外のリサイクル製品もまだ少ないです。苦しんでいる海洋生物を救うためにも、自分たちの環境や未来のためにも、今すぐ解決したいので、取り組み続けます。
廃漁網のアップサイクル商品を使ったり、ビーチクリーンで廃漁具を拾ったり、ぼくたちにもできることがあります」と参加者にメッセージを届けました。
相撲取りから青いサンタまで、目指せ!日本一楽しいごみ拾い
NPO法人海さくらの古澤 純一郎さんは、藤井くんが参加するビーチクリーン活動を20年にわたり主宰しています。

全身ブルータイツのブルーマンで登場した古澤さんに会場が湧きましたが、楽しく参加してもらうことこそ、継続的に海洋ごみ問題に興味を持ってもらい、ビーチクリーンに参加してもらえる鍵だと話します。
神奈川県藤沢市の江ノ島を中心に、すでに20年ビーチクリーンに取り組んでいる海さくらでは、「明るく楽しくマイペースに!」を合言葉に、誰でも参加でき、「面白いごみ拾った選手権」や、参加者が青いサンタの格好をしてごみを拾う「BLUE SANTA」や、ビーチクリーンの後に相撲取りとビーチで相撲が取れる「どすこいビーチクリーン」などイベントを企画しています。
「私は船具屋の長男として生まれ、海や川にお世話になってきました。江ノ島にかつて生息していたタツノオトシゴが戻ってくるくらい海をきれいにすることを目標に2005年に海さくらを立ち上げました。
当たり前にごみがある海にはしたくない。環境活動に興味がない人にも、いかに興味を持ってもらうかを大事に、楽しい活動を企画しています」
古澤さんたちは、ビーチクリーンだけでなく、魚類の散乱や稚魚の生育場所となり、水質浄化などにも効果を発揮する「海のゆりかご」と呼ばれるアマモの再生にも取り組んでいます。
対話型ごみ拾いプログラムで、アクションへ
最後は、対話型ごみ拾い「うみごme」のワークショップが行われ、年齢も背景も異なる参加者同士が、拾ったごみを通じて対話を交わしました。ファシリテーターは、このプログラムを開発し、社会課題、地域課題をデザインを通して解決するissue+designの理事・デザイナーである白木 彩智氏が担いました。
子どもから大人まで、様々な年齢層、バックグラウンドの人たちがグループにバラバラに分かれ、自分たちが拾ってきたごみを紹介し、実際にごみを捨てる人たちの気持ちや捨てられたものの処分について、対話しながら参加者全員で考えました。
初めて顔を合わせる参加者同士だったにも関わらず、プレゼンテーションでの学びも影響し、ワークショップはおおいに盛り上がりました。自分がこれまで捨てないで放置していたごみについても振り返り、今後のアクションを変えていことへと繋がっていきそうです。
終了後には、登壇者、参加者一緒に交流会が開かれました。
会場では、パタゴニアの環境革新的な多年生穀物「カーンザ」を使用したビールや、大塚製薬のポカリスエット リターナブル瓶250ml など、環境に配慮したドリンクも提供。
環境配慮ドリンクを片手に、参加者と登壇者が語り合う交流会も開かれ、持ち帰るべきアクションの種が芽生える時間となりました。
当日のイベントの様子を動画でも視聴できます!