実はサボるのが上手?動物の生態から見えてくるものとは【書評】

「サボる」という人間的な言葉と、 目の前のことに一生懸命な動物。日々生きることに精一杯な動物には当てはめにくい印象ですが、実は動物もサボっている?『サボり上手な動物たち』(佐藤 克文・森阪 匡通/岩波書店)を読んで、動物と人間の違いについて考えてみました。

動物と人間の違いって?

願望があります。真っ白な大型犬の、首の付け根あたりに自分の鼻先をつっこんで、大きく深呼吸してみたい。
毛布より少しゴワゴワしたようなその毛並みに触れながら、何とも言えない匂いを嗅いでみたい。

とはいえ、自分は犬猫アレルギーです。実際には大型犬に触れることさえできません。

憧れも募ってか、散歩中の飼い犬や、近所に出没する野良猫に、普段からどうしても目を奪われてしまいます。けれどもそんな感情とは裏腹に、自分の体は愛らしい動物たちを異物と見なして反応するわけです。
好ましく感じながらも相容れないジレンマを持ちながら、ある日ふと、「動物たちと人間は、絶対的に異なるものなのか」と考えるようになりました。

二本足で歩いて積み木を運ぶラッコや、南極で写真家 に興味津々近寄ってくるペンギンなど、動物たちによる人間のような振る舞いをSNSや動画などで目にすることがあります。
世間一般的に『ペットとコミュニケーションが出来ている』と感じる人も少なくないように感じます。『ペットと自分(飼い主)が似ている』と感じている人も多いでしょう。
ただ、僕は動物との接点が限られていることもあり、想像はしてみるものの、そこまで身近に感じられたことはありません。

“動物と人間の違いとは?”。
そんなことを考えつつ、動物にまつわる本を読んでみました。

サボり上手な動物たち

サボり上手な動物たち』(佐藤克文・森阪匡通/岩波書店)

「サボる」という言葉が使われ始めたのは大正時代からだそうです。
この言葉自体に、なんとなくネガティブな印象を感じますし 、日々生きることに精一杯な動物には当てはめにくい印象です。
「サボる」という人間的な言葉と、 目の前のことに一生懸命な動物を掛け合わせたタイトルに惹かれて、この本を手にとってみました。

本書では、野生動物に小型のカメラやマイクを取り付け、その生態を観測する「バイオロギング」の実験が数多く取り上げられています。紹介されているのは、バイオロギングを通して観測された“動物たちのサボり”の様子です。

たとえば、アザラシにカメラを取り付けて生態を観測してみると、1日のほとんどの時間 を海に潜ることに使っているとわかります。
生きるためにオキアミや小魚を食べ、子アザラシに泳ぎを教えるために潜ることもあります。
では、ひっきりなしに海に潜るアザラシはいつ休息しているのでしょうか。実は、泳ぎ方に工夫がありました。普段よりもゆっくりと、かつ螺旋軌道を描いて時間をかけて潜ることがあるのです。その間にアザラシは眠ったり、体を休めたりしている。これがアザラシに見られた「サボる」です。 あまりにもリラックスした状態で泳いでいると、時には寝ぼけて海底に頭をぶつけることもあるそう。

日々の仕事に追われていると、ついつい力の入らない日が人間にはあります。「サボり」は 人間特有の行動に思えますが、調査すると、ほかの動物たちも案外サボりながら生きている。サボる動物たちの事例を知ると、人間と動物のあいだに感じていた距離が少し近くに思えてきます。

本の中では、アザラシやイルカなどの海洋動物のバイオロギングを主として紹介されています。陸で暮らしている私たちは、機材に頼らなければ海洋動物の生態観察はできません。
厳しい環境での観測を可能にし、高いハードルを乗り越えて観察した結果が、動物たちが人間と変わらずサボっている姿だと考えると、なんとも微笑ましいと感じます。

大型犬に顔をうずめることへの 好奇心を捨て切らず、触れられない体質なりに動物を愛でることを考えてみよう、なんて思う読後感でした。

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たけお
Takeo
アスクル プロダクト&マーケティング本部 P&M事業企画 アナリティクス
新卒でアスクルに入社。分析チームに配属し、日々数字と格闘しています。社内の部活動(読書会部)の副部長として、読書会運営・貸し本棚作成などに携わっています。旅先でも必ず本屋に行く習性です。

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