南アフリカのサファリガイドが目指す、動物と人とのサステナブルな生き方【太田ゆかさん】

日本人女性として、初めて南アフリカ政府公認サファリガイドとして活動する、太田ゆかさん。現地でサファリロッジやサファリツアーを運営しながら、テレビやラジオ、SNSなどのメディアを通してサバンナやそこでくらす動物たちの現状を発信し続けています。

「サバンナには、人間が本来していたはずのサステナブルな生き方がある」と話す太田さんが感じる、サバンナの魅力とは? さらに、サファリガイドとしての生き方を選ぶまでのお話や活動内容、サバンナが抱える課題や現地でのくらしについても伺いました。
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太田ゆか
yuka ota
南アフリカ政府公認サファリガイド
立教大学観光学部在学中に、南アフリカのサファリガイド訓練学校に入学。現地の資格を取得後、2016年からはグレータークルーガー国立公園にてガイドとして活動する。トレイルガイドの資格や、全9州のカルチャーガイドの資格も取得。ガイドの傍ら、「罠にかかった野生動物の救助」「密猟からサイを守るためのプロジェクト」「人間と野生動物の軋轢を防ぐためのGPS活用」など野生動物の保護活動にも取り組み、現地の生態系保全を目指す。

公式サイト「Yuka on Safari」

ポッドキャスト「Yuka on Safari」

初めて訪れたサバンナに大感動!サファリガイドを目指して訓練校へ

太田ゆか

ーー太田さんは、日本人女性初の南アフリカ政府公認サファリガイドだそうですね。どのようなお仕事なのでしょうか?

太田:サファリガイドは、サファリカーやウォーキングでのツアーなど、世界中から訪れる観光客をサバンナの大自然にお連れして、一緒に動物を探し、その生態や動物たちが抱える環境問題について解説することが主な仕事です。

なかでも、南アフリカの観光局が定めた資格を持つ人が公認サファリガイドとして認められます。ガイドとして働くためには、動物の知識だけではなく、現地の第二種運転免許やもしもの時に備えた救急救護の資格も必要なんです。

ーーなぜサファリガイドを目指そうと思ったのでしょうか?

太田:小さい頃から動物が好きだったので、「動物を守る仕事がしたい」と思っていたのですが、理系が苦手過ぎて獣医師になるのは無理だったんです(笑)。でも、直接動物の命は救えなくても、動物がくらす環境を守ることはできるかもと思いました。

それで大学時代は、環境保護活動をしているNGO団体でアルバイトをするなど、環境保護という文脈の中で自分がピンとくる仕事を探していました。そんな時、ネットで見つけて参加した、ボツワナのサバンナ保全プロジェクトが、人生初のアフリカで初のサバンナでした。

太田ゆか
ボツワナのサバンナ保全プロジェクトでの一枚(©Yuka on Safari)

ーーそれが大きな転機に?

太田:はい。これまでたくさんの自然を世界各国で見てきましたが、アフリカのサバンナはスケールが桁違いでした。それに、野生動物と人が一緒にくらしている環境や光景も衝撃的で、この自然を守りたいと強く感じました。

その時に案内してくれたサファリガイドの女性が、ガイドの訓練学校のことを親身に教えてくれて、私にもチャンスがあるのかもと思ったんです。

ーーそれで思い立って、訓練学校に入学されたのですね。

太田:南アフリカのサファリガイド訓練学校に入ったのですが、健康で英語さえ話せれば、実は誰でも入れるんです。むしろ、苦労したのは入学してからでした。

当時、日常会話レベルの英語はできたのですが、専門的な勉強をするには、英語力が全然足りないことに気づいて……。学校では、環境学や生物学を学んでいる人も多く、ついていけるか不安でした。

ーー具体的には、どんな勉強をするのですか?

太田:>フィールドワークと座学の両方があります。実地では、朝と夕方に先生とサファリカーに乗って、動物の行動を足跡で読み解く方法や動物との距離の取り方などを学びます。

動物の足跡を見て、この角度ならこの方向に歩いていったとか、足跡の間隔からこのくらいの速度で走っていたとか、動物の種類だけでなく、その行動も読み解くんです。動物が残した情報から、その場所で昨日起きたことを想像するのが面白いですし、かなり奥が深い世界なんです。

太田ゆか
訓練校時代のフィールドワークの様子(©Yuka on Safari)

ーー実践的で、お聞きしているだけで面白そうですね。座学では何を?

太田:座学では、特に地質学をしっかり学びました。サバンナというと生き物に注目しがちですが、生き物がくらす環境を作っているのは、その地域の土壌です。こういう土壌だから、この植物が生えて、それを食べる草食動物がいて、さらにその動物を食べる肉食動物がいる。つまり、土壌が生態系の根幹なんです。

学校ではほかにも、動物の生態学や行動学、分類学、天文学も勉強しました。大変でしたが、勉強を初めて楽しいと思えた場所でしたね。

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訓練校時代の座学の様子(©Yuka on Safari)

保護活動には終わりがないけれど、やらない選択肢はない

ーー訓練学校を卒業した後は、サファリガイドになられたのですか?

太田:それが、南アフリカの雇用を守るために、現地では外国人の雇用に厳しくて。なかなか就職できなかったので、数年はボランティアとして活動してから、就職しました。今は、日本から来たお客様を日本語で案内するサファリツアーをメインで行っています。

太田ゆか
©Yuka on Safari

ーーサファリガイドとして、どんな時にやりがいを感じますか?

太田:ツアーの参加者のみなさんと、最後に話す時ですね。最初こそ、「動物が見たい」「大自然が見たい」という気持ちで参加する方が多いのですが、一緒に野生動物たちの姿を見ていくうちに、最終日には「動物同士の共生関係が面白かった」とか、「動物が直面している環境問題を知ってショックだった」とか、感想が変わっていくんです。

ツアーに参加したことで、一段階深い学びを得てもらえるというのは、とても価値があることだなとやりがいを感じます。

太田ゆか
©Yuka on Safari

ーー実際に「動物が直面している環境問題」としては、どんな課題があるのでしょうか。

太田:一番大きな課題は、野生動物の生息域がどんどん少なくなっていることです。かつてはアフリカ全土に広大な自然が広がっていたのが、鉱業地帯や農業地帯が増えたことで、野生動物と人の生息域が重なるようになりました。

共存するために、動物がくらすエリアを国立公園として柵で囲って、人が生活するエリアと分けているのですが、柵で分断したことで動物の本来の移動パターンが維持できなくなっているんです。

また、移動できなくなった分のエネルギーが繁殖に使われているせいで、生息域の面積に対して象の数が増えすぎてしまうという問題があります。さらに、象が食べ過ぎて木が減ってしまい、その木にしか巣を作れない鳥が絶滅の危機に瀕しているという問題も起きています。

一方で、保護区から柵の外にある村へ逃げ出したヒョウが家畜のヤギを食べたり、子供が危険にさらされたりといった問題も。結局、人間が動物たちの土地を奪ったことで、生態系のバランスが崩れてしまっているんです。

ーー日本でも、熊が町に降りてきてしまうニュースをよく見るようになりました。

太田:そうですよね。動物と人間がどう共存していけばいいのかという問題は、世界中で起きていると思います。いずれにしても、動物の個体数や行動パターン、生息域を把握して対策していくことと、人の安全を守ることがまず先だと考えています。人が安心してくらせるようになって初めて、動物を守るための行動が取れるので。

ーーサバンナと言うと、密猟のイメージもあるのですが、実際にそういう問題もあるのでしょうか?

太田:はい。角の売買を目的としたサイの密猟が大きな問題で、アフリカでは年間数百頭以上のサイが殺されているせいで、ものすごいスピードでサイの数が減っているんです。

それから、ウォーキングサファリをしている時に、針金の罠もよく発見します。それは現地の人たちがインパラやシマウマの肉を食べるために仕掛けているのですが、結局回収にも来ないまま放置することも多いですね。

そうやって動物が死んでいるのを見つけた時は、人間として本当に申し訳ない気持ちになります。

ーーそういう現場を前にすると、無力さを感じることもあると思います。どうやってモチベーションを保っているのですか?

太田:私はガイドをしながら、罠にかかった野生動物の救助や密猟からサイを守るためのプロジェクト、GPS活用による野生動物の保護活動にも取り組んでいるのですが、保護活動は本当に終わりがありません。

全てが一度に解決する方法はないので、小さな一歩を積み重ねるしかない。でも、針金の罠を1つ回収しただけでも、それで救われた命がある、小さくても確実な成果があると思うと前向きになれるんです。できることがあるなら、やらないという選択肢はないんですよね。

太田ゆか
密猟者に狙われるのを防ぐため、あらかじめ角をカットしたサイ

ーーサファリガイドとして生きる太田さんにとっての最終目標はなんですか?

太田:私の究極の夢は、死ぬまでサバンナで環境保護に携わり続けること。そのために、南アフリカでしっかりと基盤を築いて、エコツーリズムに対して私だからできる貢献をしたいと思っています。私が日本語でガイドすることで日本から来てくれる人がいるなら、それは私にしかできない価値だと思うんです。

2024年には「Yuka on Safari」という会社を起こして、2025年にサファリロッジをオープンしました。現地のスタッフを雇って一緒にロッジを運営しながら、日本人向けのサファリツアーを実施しています。ゆくゆくは、ツアーの利益を保護活動にも回していきたいですね。

サステナブルなくらしは、人間が本来していたはずの生き方

太田ゆか
©Yuka on Safari

ーー南アフリカにくらして、もう10年になるそうですね。動物の保護活動以外にも、生活のなかで環境に気を配っていることはありますか?

太田:南アフリカでは、何でも自分で修理して使っています。サバンナでくらしていると、壊れてもすぐに新しい物を買える環境になく、金銭的にも難しい場合も多いので、直すのが唯一の選択肢。

現地の人たちは、ペンなどの簡単な物から扇風機まで、本当になんでも自分で直すから、すごくリスペクトしています。私もYouTubeを参考にしながら扇風機を修理してみたのですが、直った時はとてもうれしかったです。まさにエシカルですよね。

ーーエシカルやサステナブルという言葉を聞くと、実践するのはハードルが高いと感じる方も多いと思います。そういう方に伝えたいことはありますか?

太田:エシカルやサステナブルというと、意識が高い人が言い出した新しい概念のように感じるかもしれないですが、私は人間が本来していたはずの生き方だと思っています。まさにサバンナは、そんな自然や動物、人との共生関係をビビットに感じられる貴重な場所なんです。

なので、理想としては現地に足を運んで南アフリカの空気を感じて、先祖が送っていた生活の片鱗を見て、私たちの中に眠っているはずのサステナブルな生き方を思い起こしてもらえたらうれしいです。

現地に来るのは難しくても、私の発信を通して、動物と人の繋がりやサバンナでの生き方に興味をもってもらえたらいいですね。

太田ゆか
©Yuka on Safari

企画・編集:株式会社4X
執筆:末光京子

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