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「フィンランドが好き」の根っこは、街と自然、人との距離感の心地よさ

ヘルシンキのランドマークである、ヘルシンキ大聖堂と観覧車
ーーchikaさんは、会社員時代から13年以上もフィンランドに通っていたほど、フィンランドが好きだそうですね。そんなにも惹かれたきっかけは何だったのでしょうか?
chika:きっかけは、2008年の20歳で初めてフィンランドを訪れた時に、「ここに住みたい」と思ったことです。
惹かれた理由は大きく2つあって、1つは街と自然の距離感です。首都でも森や湖が生活の近くにあって、くらしの便利さと自然が同じ風景の中にあることが田舎育ちの自分には落ち着いたんです。
もう1つは人との距離感で、相手に踏み込み過ぎずに尊重する空気があって、「私はこれが好きだけど、あなたはそれが好き」と、お互いの違いを置いたまま関係を続けられる感覚が新鮮でした。
ーーフィンランドには、自然も人も尊重する空気があったんですね。
chika:はい。その後も、年に一度以上はフィンランドに通うことが、自分の中で1つの習慣になっていきました。ただ、26歳頃に転職したことで忙しくなり、「いつかフィンランドに住みたい」という夢が遠のくような時期がありました。
それで、「せめて週末だけでも北欧に触れていたい」という、少し諦めのような気持ちも含めて、「週末北欧部」と名付けたブログやマンガの発信を始めたんです。
ーーそれが、「週末北欧部」の始まりだったんですね。仕事が落ち着いてから、フィンランドに通い続けるなかで、フィンランドへの印象はどう変わっていきましたか?
chika:最初は単なる憧れの気持ちが大きかったのですが、通う回数が増えるにつれて、「旅行で好き」と「生活として続く好き」は違うかもしれない、という視点も出てきました。
でも、28歳の時に日本での仕事の契約更新のタイミングでフィンランドに3週間ほど滞在したら、「好き」の根っこが旅行の高揚感ではなく、生活の手触りにあると分かって安心したのを覚えています。
好きな気持ちが大きいからこそ、いい面だけでなく、複雑な手続きや言語、冬の暗さなどの現実面も含めて見ていこう、と少しずつ思うようになりました。
フィンランドでくらしたい。憧れのままで終わらせないために、移住を決意

ヘルシンキの路面電車
ーーそこからだんだん、フィンランドに移住したいという想いも高まっていったのでしょうか?
chika:そうですね。はじめに魅力を感じていた街と自然の距離感、人との距離感の心地よさが、日常の中でもちゃんと続くことが分かって「ここならくらしていけるかもしれない」と思えたのが大きかったです。
また、友人が言っていた「人生の終わりに、『本当はこうしたかった』と言わない人生にしたい」という言葉も心に残っていて……。憧れを憧れのまま終わらせず、一度は自分で何かに挑戦してみたいという気持ちが強くなっていきました。
ーーとはいえ、北欧に移住するのは簡単ではなかったと思います。どう実現していったのでしょうか。
chika:フィンランドに3週間滞在する前から、ぼんやりとした憧れを行動に変え始めてはいました。例えば、北欧カフェへの憧れから、実際に週末に日本のカフェで修行をしてみて、飲食店で働く大変さも現実として知りました。
その上で、どうせ苦労するなら、本当に好きな場所で苦労した方が「苦労対効果が高い」と思うようになったんです。それなら、好きなフィンランドで挑戦しよう、と発想が切り替わっていきました。
そこから移住の手段を現実的に調べ始めた時に、フィンランドの求人サイトで寿司職人の求人を見つけたんです。日本人であることを活かすことができて、手に職もつく。世界中どこにいても何歳になっても、自分らしい仕事を続けたい、という自分のキャリア観にもぴったりだと思いました。
ーーフィンランドに住むために、会社員から寿司職人の世界に飛び込もうとするなんて、とても大胆ですね。
chika:そう思われるかもしれませんが、実際のところ自分は心配性なので、勢いだけで大きな決断をするのは苦手なんです。
だからこそ、平日は会社員を続けながら、週末は寿司学校で学び、並行して日本の大衆的なお寿司屋さんでもバイトをする、という「安全と挑戦を両立する」形を選びました。寿司学校に入ったのは31歳の時で、そこから3年は修業をしましたね。
夢に向かって、「いつか」ではなく少しずつ「今やっている」に変えていく。そうやって現実の足場を残したまま挑戦を積み重ねたことが、今につながっていると思います。
chikaさんが日本で修業中に作ったお寿司
ーー仕事や学校をいくつも掛け持ちしながら、3年も修業を続けられたのがすごいです。
chika:もともと、先が見えない状態が続くとしんどくなりやすい性格なので、最初からとりあえず3年、と期限は決めていました。そうすることで、日々のしんどさも「今は道の途中」と位置づけられて、続ける力になりました。
ただ、「もっとできるはず」と思ってしまって、当時は自分の生活を後回しにしてしまいがちでした。時間がどんどん削られて、余白がなくなっていきました。
その一方で発見もあって、30代にして寿司店で新人になることが、想像よりずっと新鮮でした。できないことが多い分、伸びしろが目に見えて、学ぶこと自体が支えになっていました。
頑張り続けることが正解じゃない。回復しながら続けることが、一番遠くへ行けると気づけた

フィンランドのヘルシンキにあるセウラサーリ島
ーー修業を終えた後は、いよいよフィンランドに?
chika:はい。フィンランドのお寿司も出すレストランで働けることが決まったので、語学の準備もしつつ、2022年に33歳でフィンランドのヘルシンキへ移住しました。
ーー準備をされてきたとはいえ、海外で働くのは大変だったのでは?
chika:そうですね。北欧の休暇は長いイメージだったのですが、それは勤続1年後からの話で、移住1年目は社会人人生で一番勤務日の多い1年になりました。実は、日本の祝日はフィンランドより多いと知って、驚いたんです。
私は頑張ることがベースの性格なので、「自分が踏ん張ればなんとかなる」と思いがちで、最初は上手く休んだり頼ったりできませんでした。
そんななか、周りの同僚は「無給でいいから夏休みがほしい」と自分で休みを作ったり、できないことにはしっかり「ノー」と言ったりして、無理することなく自然に生活を整えていました。
その姿を見て、必要なものは自分で取りにいく必要があるんだ、と学べたのだと思います。まずはその姿勢を真似するところから始めようと、少しずつ自分の時間も優先して、仕事や生活を続けられる形を作れるようになっていきました。
やみくもに頑張り続けることが正解ではなく、回復しながら続けることが、結果的に一番遠くへ行ける。時間をかけて、ようやく体で分かってきた気がします。
ーー休みの取り方や働き方が分かってからは、生活にも慣れていったのでしょうか。
chika:はい。でも、移住してから2年目に、勤め先のレストランが倒産してしまったんです。フィンランドの雇用支援窓口にも行ったのですが、もともと日本では副業でマンガ家としても活動していたので、就職はせず、このタイミングでフリーランスの道を選ぶことに決めました。
ただ、独立したとたん、これまで当たり前のようにそばにいた同僚が急にいなくなったことで、とても孤独を感じたんです。そんな時、キャリア相談窓口の方に、コミュニティーを持つことの大切さを何度も教えられたことを思い出しました。
そこからは、自分で探してマンガのイベントに参加するなどして、人とのつながりを作っていきました。今はマンガのコミュニティーで仲間ができて、一緒にマンガを販売するコミックイベントに出たり、制作物を共有したりしています。

フィンランドで開催された、コミックイベント
ーーくらしぶりについても伺いたいのですが、フィンランドでは、日々をどのように過ごされていますか?
chika:平日は、主に家でマンガの制作をしています。気分によってはシェアオフィスに行くこともあって、そこで働くフリーランスの方々を見ていると、まるで同僚のように感じて「私もこれをやってみよう!」と背中を押されることがあります。
シェアオフィスは18時頃には閉まるので、午前中から大事な仕事を進めて、夕方には終えるようにしています。フィンランドの夏は23時頃まで外が明るいので、夕方以降に森へ散歩に出かける日もあって、その明るさに助けられることも多いですね。
週末は、回復の時間を取るように意識しています。自然の中を歩いたり、日記を書いたり、友人と会ったり。頑張り過ぎない形で、自分を整える時間を確保しています。

フィンランドのシェアオフィス
エシカルは、くらしの負担を減らして長く続けるための「やさしい整え方」

フィンランドの中古品店
ーーフィンランドでは、エシカルやサステナブルについて、どんな考えが浸透していますか?
chika:意識が高いことをするというより、生活の前提として自然に意識している感じがします。フィンランドの友人たちは、日常の中で「買い過ぎない・捨て過ぎない・共有する」といった小さな選択を生活のなかで積み重ねている印象です。
例えば、必要な物はまず中古で探したり、壊れたら買い替える前に修理して長く使ったりします。フィンランドの有名なファッションブランドや食器ブランドの正規店でも、中古品を扱うコーナーがあるんです。ブランド自らが、新品だけではなく長く使って受け継げる選択肢を用意しています。
デパートの中に中古品店が入っていることも含めて、中古品がくらしの自然な一部として根づいているのを感じました。

食器ブランドの正規店にある中古品コーナー
ーー確かに、日本では見かけない光景ですね。
chika:そうですよね。共有の仕組みもくらしに浸透していて、図書館では本だけでなく、スキー板も借りられたり、音楽制作のための機材や楽器が使えたり、録音ができたりする場所もあるんです。
そんなふうに、何か新しいことを始めたい時に道具やお金の心配を減らしてくれるので、結果としてムダな購入を増やさずにくらしていけるんだなと感じます。
食の面でも、例えばヘルシンキ大学の学食では、メニューの横にCO₂換算排出量や漁法の持続可能性が分かる形で示されています。食べ残し量を計測したり、売れ残りを割引販売する仕組みもあったりして、サステナブルな考え方が日々の運用として組み込まれているのが印象的でした。

CO₂換算排出量や漁法の持続可能性が掲示された、ヘルシンキ大学の食堂のメニュー表
また、自然との付き合い方も印象的で、フィンランドには自然享受権(※)があるので、森でベリーやきのこを摘むなどして、季節の恵みを日々の楽しみに取り入れる人も多いですね。
※土地の所有者であるかどうかを問わず、誰でも自然の恵みを享受できる権利。

フィンランドの森のきのこ
ーーchikaさんご自身は、日常のなかでどんな形でエシカルなくらしを実践していますか?
chika:完璧を目指すより、続く範囲で小さく積み重ねるようにしています。例えば、買い物は必要な物を必要な分だけにする、手元にある物は最後まで使う、食材は使い切れる献立を考える、などです。
自分にとっては、エシカルは我慢というより、くらしの負担を減らして長く続けるための「整え方」に近い感覚です。いきなり生活を大きく変えなくても、まずはできる範囲でひとつだけ減らしてみる、ひとつだけ長く使ってみる。そんな小さな選択を、長く続けていくことが大切だと感じています。
それから、エシカルは一つの正解を決めるものではなくて、自分の選択が誰かや環境にどうつながっているのかを想像しながら、くらしを少しずつ整えていくことにも近いのかなと思っています。
企画・執筆・編集:株式会社4X
執筆協力・写真・イラスト:週末北欧部chika


