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ネイチャーポジティブとは?

ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を止めて、自然を回復軌道に乗せることを指し、「自然再興」とも呼ばれています。
ネイチャーポジティブという考え方は、2021年の「G7 2030年自然協約」において表明されました。2022年の「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、2050年までに自然と共生する世界を実現するために、2030年までのネイチャーポジティブのミッションとターゲット目標が掲げられています。
ネイチャーポジティブでは、単に自然環境を保護するための取り組みを実施するのではなく、さまざまな分野と連携して、生物多様性を守るための社会や経済に変革していくことが求められています。
生物多様性とは?
そもそも生物多様性とは、多種多様な生きものが関わり合って成り立つ自然環境の豊かさを指し、次の3つがあるとされています。
生態系の多様性
「生態系の多様性」とは、地域ごとの気候や地形、土壌などの条件に応じて、多様な生態系が成り立っていることです。地球上には森林や里山、河川などのさまざまな自然環境が存在し、同じ森林でも地域によって様子が異なるように、固有の生態系が形成されています。
種の多様性
「種の多様性」とは、ある地域に生息・生育する動物や植物、微生物などの生物の種類の多さを指します。種の多様性は生態系の多様性の影響を受けており、また同時に生態系の機能を維持する役割も果たしています。
遺伝子の多様性
「遺伝子の多様性」とは、同じ種の中でも個体ごとに性質や形状を左右する遺伝情報の違いです。遺伝子の多様性が高いと、その種が環境変化に適応できる可能性が高まります。
このように、さまざまな面で多様性が保たれることで、私たち人間も豊かな自然の恵みを受けながら生きることができるのです。
ネイチャーポジティブはなぜ必要なの?

ネイチャーポジティブの実現が求められているのは、私たちの生活にとって重要な役割を果たす生物多様性が危機に直面しているためです。
私たち人間は、生物多様性がもたらす「生態系サービス」の恵みを受けて暮らしています。例えば、その恵みには以下のような分類と例があります。
- 基盤サービス
・例:人間を含む生物の生息環境の提供 - 供給サービス
・例:食料、水、木材、遺伝情報など - 調整サービス
・例:災害の緩和、気候の調整など - 文化的サービス
・例:自然景観、食文化など
このように、あらゆる面で私たちの生活を支える生態系サービスは、生物多様性によって維持されています。ですが、その多様性が今、失われつつあるのです。
環境省の「生物多様性及び生態系サービスの総合評価2021」によると、過去50年間で日本の生物多様性は損失し続けていると報告されています。
また、WWFの「生きている地球レポート2024 -自然は危機に瀕している-」によると、自然と生物多様性の健全性を測る数値「生きている地球指数」が、1970年から2020年の50年間で平均73%減少していることが明らかになりました。
こうした現状を食い止めて、私たちが安心して暮らせる環境を守るためには、ネイチャーポジティブの実現が強く求められているのです。
ネイチャーポジティブとSDGsの関係
生物多様性の回復を目指すネイチャーポジティブは、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」や目標15「陸の豊かさも守ろう」に直結する考え方です。
他にも、生物多様性がもたらす生態系サービスには、食料や水の供給、気候調整などの恩恵があり、食料問題や水資源の利用、気候変動対策にも関連しています。
つまり、ネイチャーポジティブは環境だけでなく、社会の持続可能性も支えている、SDGs全体に関わる重要な考え方なのです。
ネイチャーポジティブとカーボンニュートラルの関係
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質的に排出をゼロにすることを意味します。ネイチャーポジティブとカーボンニュートラルはいずれも、「自然を活用した気候変動対策(NbS)」によって達成が目指されている重要な課題です。
カーボンニュートラルを実現するうえで、大気中の二酸化炭素を吸収する、森林や海洋といった自然の力は欠かせません。これらの自然環境は、二酸化炭素を吸収・貯蔵する「カーボンシンク」として機能しています。
ネイチャーポジティブの推進によって生物多様性が回復し、森林や海洋などの生態系が健全に保たれることは、カーボンシンクの機能を高めることにつながります。つまり、ネイチャーポジティブの推進は、結果的にカーボンニュートラルの実現にもつながるのです。
ネイチャーポジティブへの国内外の取り組み事例

ここからは、ネイチャーポジティブの実現に向けた、国内外での取り組みについてそれぞれご紹介します。
国際的な取り組み
国際的な事例としては、次のような取り組みがあります。
IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)
IPBESは、2012年に設立された国連主導の政府間プラットフォームです。生物多様性や生態系サービスに関する科学的知見を評価し、各国政府の政策づくりに役立てることを目的としています。
代表的な成果として、2019年に発表された「地球規模評価報告書」があり、人間の活動による生物多様性の危機を科学的に示したことで、世界的な危機意識の共有に大きく貢献しました。
昆明・モントリオール生物多様性枠組
2022年12月に採択された、生物多様性に関する国際的な目標です。2030年までに自然の損失を止め、回復に向かわせるために、23の具体的な世界目標(グローバルターゲット)が設定されています。各国が同じ基準で進捗を確認する「グローバルレビュー」も定められており、実効性の高い枠組みです。
30 by 30
昆明・モントリオール生物多様性枠組のひとつで、「2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全する」という目標です。国立公園などの保護地域に加え、生物多様性を守る機能をもつ地域を設定・管理することで達成を目指しています。
日本の取り組み
日本の事例としては、以下のような取り組みがあります。
生物多様性国家戦略2023-2030
昆明・モントリオール生物多様性枠組に沿って、日本が2030年に向けて何を行うかをまとめた国家戦略です。2023年3月に閣議決定され、生物多様性の保全や自然資本を活かした社会・経済活動の促進を掲げています。
ネイチャーポジティブ経済移行戦略
生物多様性国家戦略2023-2030の中で、「ネイチャーポジティブ経済の実現」を進めるための重点施策です。企業が自然資本を守りながら成長につなげる取り組みをサポートする内容で、ネイチャーポジティブを実践する企業が、新たな経済価値を生み出すことを目指しています。
ネイチャーポジティブの実現のために、個人にできることは?

ネイチャーポジティブを達成するために個人でできるアクションには、例えば以下があります。
認証マークを目印に買い物をする
生物多様性が損なわれる原因として、森林伐採などによる生息地の消失があります。お買い物の際には、環境や生態系への配慮を示す認証マークを目印にしてみましょう。
森林の生物多様性を守る「FSC®認証ラベル」や、海洋生態系に配慮した「MSC認証(海のエコラベル)」、農地の生態系を守る「有機JASマーク」など、生態系保全に関連する認証マークがついた製品を積極的に選ぶことが、ネイチャーポジティブにつながります。
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省エネ・節水を心がける
気候変動や環境汚染は、生物多様性が失われる大きな要因の一つです。日常生活の中で電気や水をムダなく使うだけでも、温室効果ガスの排出を減らすことにつながります。照明をこまめに消す、節水シャワーヘッドに替えるなど、小さな工夫から始めてみましょう。
プラスチックフリーを生活に取り入れる
海や川に流れ出すプラスチックごみは、生き物に深刻な影響を与えています。マイボトルやエコバッグの活用、リフィル商品を選ぶなど、日常の中でプラスチックを少しでも減らす工夫を取り入れることが有効です。
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ネイチャーポジティブを表明する企業を応援する
ネイチャーポジティブの実現には、企業による経済活動の変革も重要です。「ネイチャーポジティブ宣言」をしている企業や自治体、NGOを応援することで、間接的に貢献できます。
ネイチャーポジティブに関するQ&Aまとめ
Q.ネイチャーポジティブとは何ですか?
A.生物多様性の損失を止めて、自然を回復軌道に乗せること。2021年の「G7 2030年自然協約(Nature Compact)」において表明された考え方で、世界的な社会目標とされています。
Q.ネイチャーポジティブはなぜ必要ですか?
A.ネイチャーポジティブの達成は、生物多様性がもたらす「生態系サービス」の恩恵を受けるうえで重要であるため。生態系は水や食料、原材料の供給、大気質や水質の安定などの恩恵を私たちの生活にもたらしています。
Q.ネイチャーポジティブを達成するにはどうすればいいですか?
A.個人では、プラスチックなどのごみを減らす工夫や認証マークを目印にした買い物、ネイチャーポジティブに取り組む企業の応援により、実現に貢献することができます。
生物多様性は地球の重要な基盤。日々の選択を見直してみよう
生物多様性の損失は、日常の中で実感することは少ないかもしれません。ですが、生活を支える重要な基盤であり、ネイチャーポジティブの実現は、気候変動をはじめとするその他の課題解決にもつながっていきます。
まずは生物多様性の保全に関心を持つことから始めて、日々の選択や行動を少しずつでも変えていくようにしましょう。
