モーダルシフトはなぜ必要?メリットや課題、企業の取り組み例と個人でできること

私たちがものを得る際、そこには必ず物流が関わっています。ですが今、物流における環境負荷の低減や人手不足への対応が課題となっています。従来のトラック輸送に頼るだけでは、持続可能な社会の実現や安定した物流体制の維持が難しい現状があるのです。

その解決策として注目されているのが「モーダルシフト」です。トラック輸送から他の輸送への切り替えを目指すことで、実は私たちの日々の暮らしにおいても参考になる考え方です。移動手段や宅配便の利用方法を見直すことで、モーダルシフトと同じように環境に貢献できます。

今回は、モーダルシフトについてご紹介しつつ、その考え方をどのように日々の暮らしに応用できるかを考えてみましょう。

モーダルシフトとは?

モーダルシフト

モーダルシフトとは、トラックなどの環境負荷が高い輸送手段から、鉄道や船舶などの環境負荷が低い輸送手段へ切り替えることで、CO2排出量の削減や物流の効率化を目指す取り組みです。

最近では輸送手段の切り替えだけでなく、自動運転技術を活用したトラック輸送の効率化や新幹線の空きスペースを物流に利用するなど、新たなモーダルシフトの取り組みも進められています。これらの取り組みにより、さらに環境に配慮した持続可能な物流体制の実現が期待されています。

モーダルシフトが必要とされる理由

モーダルシフトが必要とされている理由には、環境面と労働力面の2つの側面があります。

環境面
現在、日本の物流の多くはトラック輸送に依存していますが、トラックはCO2排出量が多く、環境負荷が高いという課題を抱えています。地球温暖化対策として、企業や自治体はCO2削減に取り組む必要があり、その一環として鉄道や船舶など環境負荷の少ない輸送手段への切り替えが求められているのです。

鉄道や船舶は、同じ量の荷物を運ぶ際にトラックよりもCO2排出量が大幅に少ない特徴があるため、持続可能な社会の実現に貢献できる輸送手段といえるでしょう。

労働力面
日本の流通業界では、人手不足の影響によりドライバーの確保が年々難しくなっています。トラック運転手の高齢化や若手人材の不足は深刻な問題となっており、従来のトラック輸送だけでは今後の物流需要を支えることが困難になってきています。

こうした状況の中、少人数でも大量の荷物を効率よく運ぶことができる鉄道や船舶への移行は、労働力不足への対策として非常に有効なのです。モーダルシフトを進めることで、物流業界全体の作業効率が向上し、労働負担の軽減や人材不足の解消に寄与することが期待されています。

モーダルシフトのメリット

モーダルシフト

モーダルシフトの推進は、CO2排出量の抑制やドライバー不足の解消だけでなく、物流コスト削減の観点でも効果があります。

CO2排出量の抑制

船舶、鉄道はトラックに比べて輸送時のCO2排出量が少なく、環境負荷の軽減につながります。実際にトラック輸送と各輸送手段をCO2排出量の観点で比較すると、船舶輸送では約5分の1に、鉄道輸送は約11分の1に抑制できます。

※参考:国土交通省「モーダルシフトとは

ドライバー不足の解消

少人数で大量の貨物を輸送できる鉄道や船舶は、ドライバー不足の問題を解消するための手段として有効です。特に近年では、ECサイトの利用の増加などを背景に物流のニーズが高まる一方で、物流業界は人手不足に悩まされています。

モーダルシフトはドライバーの働き方も変えます。トラックのみでの長距離輸送では、ドライバーの労働時間の長さが課題でした。対して、鉄道や船舶による拠点間輸送とトラックによる短距離輸送を組み合わせれば、ドライバーの勤務時間を減らせます。昼夜問わず運転する過酷な勤務体系であったトラックドライバーの働き方改革としても、モーダルシフトは効果的といえるでしょう。

物流コストの削減

物流コスト削減の観点でも、モーダルシフトにはメリットがあります。長距離輸送においては、大量の貨物を一度に運べる鉄道や船舶のメリットは大きく、低コストで貨物を運ぶことができます。モーダルシフトを進めることで、結果的に私たちが手にする商品の値段も下がる可能性があります。

モーダルシフトにおける課題は?

モーダルシフト

一方で、モーダルシフトの推進には課題もあります。例えば、鉄道や船舶は特定の場所間の輸送に限って利用できるものであるため、短距離などの輸送はできない点です。これを解決するために、モーダルシフトとトラックによる短距離輸送を組み合わせる必要があります。

また、鉄道や船舶は大量の荷物を運べるものの、必要量まで積み込むことが難しいというデメリットも。その対策として、小規模輸送においては複数の企業が協力し、輸送コンテナを共用するような取り組みも検討されています。

モーダルシフトに取り組む企業の事例

モーダルシフト

ここでは、実際にモーダルシフトに取り組む企業の事例をご紹介します。

花王

花王株式会社は、国内で年間24億個の家庭用製品を運ぶなかで、早くも1995年からモーダルシフトへの転換を進めている企業です。2023年度では、長距離輸送における鉄道・海上貨物輸送へのモーダルシフト化率は55%に達しています。

※参考:花王「モーダルシフトの進化

アスクル

アスクルでは、拠点間輸送における船舶へのモーダルシフトに取り組んでいます。2024年から取り組んだ実証実験では、ASKUL三芳センターからASKUL福岡DCまでの輸送行程において、船舶へのモーダルシフトによりCO2排出量を68.2%、トラックドライバー運転時間を従来比で84.8%削減。この結果を踏まえて、アスクルではモーダルシフトの推進をさらに強化しています。

※参考:アスクル「アスクル、拠点間輸送を船舶に切り替え環境負荷を低減

モーダルシフトの考え方を個人の暮らしに取り入れる方法

モーダルシフト

モーダルシフトは物流業界で用いられている方法ですが、関連する考え方として私たちの暮らしにも応用することができます。移動手段の見直しや再配達の削減、モーダルシフトを推進する企業の応援など、環境に貢献する取り組みが考えられます。

パーク(バイク)・アンド・ライドを利用する

移動手段を見直すという点で、モーダルシフトと共通する考え方を個人の暮らしにも応用できる方法として、「パーク・アンド・ライド」の活用があります。パーク・アンド・ライドとは、例えば最寄りの駅までは自動車で行き、その後は公共交通機関に乗り換える方法です。電車と比べて車はCO₂排出量が多いため、車の利用距離を減らし、環境負荷を下げる取り組みとして有効といえるでしょう。

また、自転車から公共交通機関に乗り換える「バイク・アンド・ライド」であれば、自動車を使わない分、よりCO₂排出量を抑えることができます。

再配達を減らす

CO2排出量の多いトラック輸送を最小限にするために、宅配便の再配達はなるべく減らしましょう。国土交通省によれば、宅配便の取扱数は2023年で50.7億個に達しており、再配達による環境やドライバーへの負荷が問題となっています。

日時指定サービスなどを利用して確実に荷物を受け取ることを意識し、少しでも再配達を減らすことが大切です。

※参考:国土交通省「宅配便の再配達削減に向けて

モーダルシフトに取り組む企業の商品を積極的に選ぶ

モーダルシフトに取り組む企業を応援することもまた、私たちにできることの一つです。物流も担う企業のWebサイトを確認して、モーダルシフトへの取り組みを確認してみましょう。

モーダルシフトに関するQAまとめ

Q1:モーダルシフトとは何ですか?
A:モーダルシフトとは、環境負荷の大きいトラック輸送から、より環境に優しい船舶や鉄道などの交通手段へ切り替える取り組みを指します。これにより、CO2排出量の削減やドライバーの負担軽減が期待されています。

Q2:なぜモーダルシフトが必要なのですか?
A:近年、宅配便の取扱数が増加し、トラック輸送によるCO2排出量やドライバーへの負担が大きな課題となっています。環境保護や労働環境改善のために、モーダルシフトが必要とされています。

Q3:モーダルシフトのメリットは?
A:CO2排出量の大幅な削減やトラックドライバーの運転時間の減少など、環境負荷と人的負担の両方を軽減できる点がメリットです。実際にアスクルでは船舶への切り替えにより、CO2排出量を68.2%、運転時間を84.8%削減できたという結果が出ています。

Q4:個人でもできる、モーダルシフトに関連したアクションはありますか?
A:個人でも、モーダルシフトに取り組む企業の商品を積極的に選択することで、間接的に貢献できます。また、宅配便の再配達を減らすことも、環境負荷の軽減につながります。

モーダルシフトの考え方を参考にして、環境に貢献しよう

「モーダルシフト」は、主に物流業界での企業が主体の取り組みですが、個人も意識したい考え方です。負荷の高いトラック輸送や自動車利用を減らすため、荷物の確実な受け取りや電車の積極的な利用などに取り組んでみましょう。

また、これをきっかけにモーダルシフトに取り組む企業についても、ぜひ調べてみてはいかがでしょうか。商品の購入先を変えることで、間接的に貢献できるかもしれません。

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