リジェネラティブとは?分野ごとの特徴と企業の取り組み事例を紹介

「サステナブル」という言葉はかなり浸透しつつありますが、「リジェネラティブ」という言葉はご存じでしょうか? 地球温暖化や生物多様性の損失など、危機が高まる地球環境にとって、実は重要な考え方です。

今回は地球環境の現状と「リジェネラティブ」の意味や取り入れられている分野、企業の取り組みについて解説します。

リジェネラティブとは?

リジェネラティブ

「リジェネラティブ(Regenerative)」とは、直訳すると「再生させる」という意味です。気候変動や自然破壊によって荒廃した土壌や生態系を再生し、より良い状態にすることを意味しています。

「環境再生」とも呼ばれますが、環境だけでなく社会や経済の再生も目指す包括的な考え方です。リジェネラティブは特に農業分野で積極的に取り組まれており、その考え方は観光や建築といったさまざまな分野にも広がりを見せています。

サステナブルとの違い

リジェネラティブと混同されやすい「サステナブル(Sustainable)」は、英語で「持続可能である」という意味です。サステナブルは、世界が持続可能な発展を目指せるよう、環境保護、社会的責任、経済的発展などをバランスよく実現するための取り組みを指しています。

サステナブルは「現状維持」の意味合いが強い一方で、リジェネラティブは「より良くする」という考え方であるため、サステナブルよりもさらに次のステップに進んだ考え方と言えるのです。

▼関連記事はこちら
サステナブルとは?意味やSDGsとの違い、日常でできる取り組みも紹介

ネイチャーポジティブとの違い

リジェネラティブと関連する概念として、「ネイチャーポジティブ」があります。ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を止めて、自然を回復軌道に乗せることであり、2030年までの実現が目指されている世界目標です。

「より良い状態にする」という点でリジェネラティブと似ていますが、ネイチャーポジティブは生物多様性に特化しているという点で異なっています。

▼関連記事はこちら
ネイチャーポジティブとは?2030年に向けた取り組み事例や私たちにできること

リジェネラティブが注目を集める理由は?

リジェネラティブ

近年、リジェネラティブの考え方が注目されるようになってきた背景には、自然環境や資源の維持が限界に近づきつつあるという、深刻な現状があります。「再生」という視点が求められる段階に差しかかっている環境問題について、解説します。

地球温暖化の進行

気候変動や生態系の変化など、さまざまな環境問題に影響を及ぼす地球温暖化が年々進行しています。パリ協定では、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えるという目標が掲げられていましたが、2024年の平均気温が産業革命前と比べて約1.6℃上昇したことが確認されました。

日本でも、2025年は記録的な高温や異常気象が発生しており、地球温暖化の影響を肌で感じている方も多いのではないでしょうか。取り返しのつかないところまで進行させないためにも、現状維持にとどまらず、回復に転じるための対策が求められています。

▼関連記事はこちら
地球温暖化を防止するために私たちにできることは?現状や原因、対策を知ろう

生物多様性の損失

私たちの暮らしに恵みをもたらす生物多様性も失われつつあります。環境省が2021年に発表したレポートによると、過去50年間で日本の生物多様性は損失し続けていると報告されています。

また、WWFが2024年に発表したレポートによると、自然と生物多様性の健全性を測る数値「生きている地球指数」が、1970年から2020年の50年間で平均73%も減少していることが明らかになりました。

※参考:WWFジャパン「生きている地球レポート2024 – 自然は危機に瀕している」
環境省「生物多様性及び生態系サービスの総合評価 2021」

食料危機

世界では、気候変動や紛争などにより、食料危機が続いています。WFPの報告によると、2024年は約6億7,300万人が飢餓を経験しており、2030年までに5億1,200万人が慢性的な栄養不足に陥る可能性があると報告されているのです。

飢餓は世界全体では減少傾向にある一方で、アフリカや西アジアではむしろ増加しているなど、改善の進捗にはばらつきがあります。全ての人が栄養のある食料を安定して得られる状況を実現するためには、引き続き努力が求められる現状です。

※参考:WFP 国連世界食糧計画「国連報告書:世界の飢餓は減少するも、アフリカと西アジアで増加」

リジェネラティブが取り入れられている分野は?

リジェネラティブ

リジェネラティブは、幅広い分野で取り入れられ始めています。例として、農業、漁業・水産業、観光業、建築業を紹介します。

農業

リジェネラティブの考え方を取り入れた農業は、一般に「リジェネラティブ農業」と呼ばれています。「環境再生型農業」とも表現され、土壌や生態系そのものを健全な状態へと戻すことを目指す農業です。

具体的には、土を耕さずに作物を栽培して土壌の生態系を豊かにする「不耕起農法」や、化学的に合成された肥料・農薬を使わないことで、土壌や水質環境、生態系を豊かにする「有機農業」があります。

また、同じ土地で複数の種類の作物を順番に栽培する「輪作」や、農地の空いているスペースで栽培して農地を覆う「カバークロップ(被覆作物)」を育てる方法もあります。

漁業・水産業

海洋生態系の回復も重要であるため、リジェネラティブな取り組みが実践されています。特に海草・海藻やマングローブ林などは、CO₂を取り込んで「ブルーカーボン」と呼ばれる炭素を海底に蓄積する役割を果たすため、重視されているのです。

具体的な取り組みとしては、海藻が減少してしまう「磯焼け」という現象の解消があります。主な原因は、ウニによる食害や海水温の上昇です。そのため、異常に繁殖し過ぎたウニを捕獲して飼育する方法や、適切な海藻の種類と場所を選定して生育する方法がとられています。

観光業

リジェネラティブが取り入れられた観光業は、「リジェネラティブツーリズム(再生型観光)」と呼ばれます。観光客が旅行先に着いた時よりも、去る時に環境や文化、経済がよりよい状態になっていることを目指す取り組みです。

具体的には、地産地消を意識した食事や工芸品などの特産品の消費・利用、地域文化の体験、環境保全活動への参加などがあります。

建築業

建築業では、建築のライフサイクルにおいて自然環境の改善を目指す設計方法の「リジェネラティブデザイン」が注目されています。

具体的には、再生可能なエネルギーや材料、地域で得られる天然の素材、廃棄予定の材料の活用などがあります。それによって、エネルギーと水の消費量、廃棄物や二酸化炭素の排出量などを実質的にゼロにする(ネットゼロ)にすることを目指します。

また、ライフサイクルが長く、再活用できる設計などもリジェネラティブデザインの一環です。

企業によるリジェネラティブな取り組み事例

リジェネラティブ

ここからは、リジェネラティブにつながる取り組みをしている企業を3社紹介します。

ネスレ

ネスレは、サプライヤーや生産者と連携して、再生農業の採用を奨励している企業です。生物多様性の保全と向上、水資源の管理、土壌の保護、農業と畜産の統合、景観の保護といった5つの観点で再生農業の支援を実践しています。

2024年には、21.3%の主要原材料を再生農業を実践する生産者から調達しており、2030年までに主要原材料の50%を調達することを目指しています。

※参考:ネスレ「再生農業」

ユニリーバ

ユニリーバは製品に使用する原材料の調達において、再生農業の導入・普及を支援しています。具体的には、「輪作」や「カバークロップ」、天然肥料の使用などを実施しています。「2030 年までに 100 万ヘクタールの土地で再生農業を実施する」という目標を掲げ、プロジェクトを進めています。

また、国家・国際レベルでの強力な支援政策を実現するため、業界全体の主要企業と協力して政策提言を行うなど、世界全体で再生農業のインパクトを高めることを見据えた取り組みを実践している企業です。

※参考:ユニリーバ「ユニリーバ、100 万ヘクタールの土地で再生型農業を実践」

リジェネラティブに関するQ&Aまとめ

Q.リジェネラティブとは何ですか?
A.気候変動や自然破壊によって荒廃した土壌や生態系を再生し、よりよい状態にすること。「環境再生」とも呼ばれます。

Q.リジェネラティブとサステナブルの違いは何ですか?
A.リジェネラティブが「再生し、よりよい状態にする」ことを目指す考え方であるのに対して、サステナブルは「現状を維持する」ことを目指すという違いがあります。リジェネラティブはサステナブルの次のステップと言える考え方です。

Q.リジェネラティブ農業とは何ですか?
A.土壌を健康な状態に回復し、生物多様性を促進することを目指した農業です。「環境再生型農業」とも呼ばれ、具体的な取り組みには、不耕起農法や有機農法などがあります。

リジェネラティブな考え方で、次の未来につなげよう

リジェネラティブは、環境・社会・経済を「よりよい状態へと再生させる」ことを目指す新しいアプローチであり、サステナブルを一歩進めた考え方です。

農業や水産業、観光、建築など幅広い分野で実践が広がり、企業も主体的に取り組みを進めています。気候変動、生物多様性の損失、食料危機といった深刻な課題が顕在化する今、一人ひとりがリジェネラティブの考え方を理解して、日々の選択に取り入れていくことで、よりよい未来へとつなげていきましょう。

おすすめ記事
2025.06.03
この記事の目次サステナブルとは?SDGsとの違いエシカルとの違いなぜサステナブルが注目されているの?環境面での背景社会面での背景経済面での背景サステナブルな取り組みの重要性地球環境の保全と気候変動の緩和公正な移行と格差の […]
#SDGs
2025.06.03
この記事の目次サステナブルとは?なぜ今「サステナブル」が注目されているの?エコやエシカルとの違いは?サステナブルなくらしとは?サステナブルなくらしには、どんなメリットがあるの?今日から始めよう!手軽にできるサステナブルな […]
#エシカルなくらし
#リサイクル
#リユース
ご不明点やご質問など、フォームよりお気軽にお問い合わせください。
「エシラボ」運営事務局より、 通常1週間以内に回答申し上げます。
お問い合わせ